国土交通大臣政務官の在任時から心血を注いできた、洋上風力発電の促進を図るための新しい法律(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)の基本方針が遂に閣議決定され、今夏にも促進区域の前提となる有望な海域の発表が行われる予定です。
 洋上風力発電は、日本の主要なエネルギーとしての飛躍が期待できます。しかし、今までは一般海域(港湾区域の外)の占用ルール等を定めた法律が無かったので、事業者は事業展開する海域が所在する都道府県条例によって事業を進めていました。しかし、この都道府県条例は占用期間や料金がバラバラであったり、利害関係者の調整に関する事項がなかったり、発電事業者が洋上風力発電を効率良く展開するための大きな障害となっていました。こうした問題を一つずつ整理し、風力発電事業者が事業展開をしやすい環境を作るために制定されたのが洋上風力新法です。
 当初のスケジュールでは、2018年2月下旬頃に与党の党内手続きを経たうえで、3月上旬頃閣議決定をし、内閣委員会に付託、審議を行い、2018年の第196回通常国会で新法を成立させるはずでした。予定通り、2018年3月9日に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用に関する法律案」が閣議決定。しかし、その後野党の審議拒否の影響を受け、洋上風力新法は委員会付託すらされないまま審議未了で廃案とまってしまいました。当時提出された65本の閣法のうち、不成立はたったの5本で、うち2本が不成立となった内閣委員会は、IR法など与野党攻防の最も激しい委員会の一つだったのです。洋上風力新法が通常国会で廃案となったのは、国土交通政務官退任の際に一番の心残りでした。

 廃案となった洋上風力新法は一度仕切り直しをし、微修正の上、2018年の秋の臨時国会で内閣委員会ではなく国土交通委員会に付託されることになりました。仕切り直しとなった洋上風力新法は、11月6日に閣議決定をし、11月30日に無事成立しました。
 この洋上風力新法は、閣議により基本方針を策定し、経産大臣及び国交大臣が、農水大臣や環境大臣等との協議や協議会等の意見聴取を経た上で、促進区域を指定し、公募占用指針を策定します。発電事業者は、この公募占用指針に基づき公募占用計画を提出し、経産大臣及び国交大臣が事業内容や供給価格等により最も適切な計画の者を選定し、当該事業者の公募占用計画を認定します。
 それにより、認定を受けた事業者は、最大30年間にわたって一般海域の占用を許可されることになります。洋上風力新法によって、今まで都道府県ごとにバラバラだった占用期間や占用料金は、全国的に統一されることになり、また、長期間の占用により事業者が融資を受けやすくなるなど事業環境が大幅に改善されることになります。さらに、協議会の設置や区域の指定といったプロセスの中で、一般海域における漁業者などの先行利用者との調整の枠組みを定めることで、洋上風力発電の設置が効率良く進められるのです。

 洋上風力発電の発展に繋がる新法ですが、その一方で懸念点もいくつかあり、私は衆議院の国土交通委員会で自民党を代表して質疑に立ち、政府の見解を質しました。
 まず、新法に基づく利用ルールが適用される案件についての供給価格については、入札対象になる予定です。そのため、公募占用計画で相当安い供給価格を記載した事業者が有利になります。しかし、一般海域は国有財産ですから、公物管理の観点からも、安全保障上も、安い価格を記載した事業者が直ちに認定を受けるような価格偏重の姿勢は好ましくないと考えています。新法が出来る前から地元自治体等と調整を行って信頼関係を構築してきたような事業者の努力が無駄になるようなことがあってはなりません。新法では、地元自治体等との調整状況やそのための体制等を評価するような条文になっていますが、実質的にもその点が担保されるべきです。政府は、促進区域の指定は首長からの要請は大きなファクター足りえること、また、先行的に地元と調整を行っている事業者は評価することを答弁しました。
 次に、促進区域の目標数が2030年度に5区域のみであるかのような報道を目にすることがあります。しかし、5区域はあくまでもKPI上の目安であって上限ではありません。この点も、政府は、促進区域のKPIで記載された5区域はキャップではないことを明らかにしました。
 最後に、一番懸念されるのは、洋上風力新法成立の遅れによる影響です。本来であれば、昨年の通常国会で成立し、成立後4カ月以内に基本方針を閣議決定するはずでした。そうすると、去年11月には基本方針が定められるはずでしたが、一度廃案となったため、去年11月30日に新法が成立することとなったのです。日本各地では洋上風力新法の成立を前提として動き始めている関係者も大勢いる中で、こうした遅れを取戻し、民間の投資意欲や地域との関係に冷や水を浴びせることのないようにしなければなりません。速やかに基本方針を閣議決定することで法案成立の遅れを取りもどすべく、私は各省に発破をかけ続けました。特に、促進区域の決定については、スピード感に欠けるため、一定程度先行して調査されている地域については公平性を担保しつつ、事業者のデータを利用するといった工夫をして早期に選定を進めるべきだという点を指摘しました。現在、有望海域の選定作業の真っ只中ですが、一刻も早い促進区域の指定が望まれます。
 洋上風力新法と同時に、洋上風力発電設備の拠点となる港の整備についても、政務官時代から鋭意取り組んできました。洋上風力発電設備を港で組み上げる場合、わが国の既存の港では地耐力等が洋上風力発電の建設に堪えられる状況になっていません。そこで、政務官の時に、国交省の中に私をトップとするヒアリングチームを立ち上げて、国内の大手風力発電事業者など20社以上から拠点となる港に対するアンケートやヒアリングを行いました。私や港湾局長が同席した上で、洋上風力発電事業者に一同に会してもらい全体でのヒアリングを実施するともに、担当課において個社ごとに詳細なヒアリングも実施しました。どの事業者がどこの港をどのくらいの期間、どのように使用するのか、そのためには地耐力等どのようなスペックが港湾に求められるかを把握しました。また、洋上風力先進国であるデンマークの一大拠点港であるエスビアウ港を視察し、日本の洋上風力をさらに発展させるためには同じような機能を持つ港湾の整備が絶対に必要であるとの想いを強くしました。このように、政務官時代には、洋上風力発電整備のための拠点港の具現化に向けて様々な取り組みをしました。この時のデータに基づき、国土交通省は、2019年に秋田港の地耐力を約20億円かけて、3t/m²から35t/m²に改良することを決めました。これにより、エスビアウ港のように岸壁でタワーを立ち上げてプレアッセンブルが可能となることから、建設費や工事期間が大きく圧縮されることでしょう。