太陽光発電設備に、法定外目的税を課税しようとしている自治体があります。その自治体は、域内に太陽光発電設備を設置する発電事業者を対象にした法定外目的税「事業用発電パネル税」を創設する条例案をまとめたようです。主な内容は、野立て型の太陽光発電設備について、パネル面積1平方メートルあたり50円を2020年度から課税するものです。
しかし、この条例案は、以下の点でとても大きな問題があると私は考えています。
地方税法上、新税を設置する場合、例外事由に該当する場合を除いて、総務大臣は当該法定外目的税に同意を与えなければならないことになっています。例外事由とは、①国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となること。②地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること。③国の経済施策に照らして適当でないことなのですが、条例案は例外事由に該当していると私は考えています。
まず、事業用発電パネル税は、①に抵触しています。太陽光発電事業の売電収入はパネル面積に比例するため、課税を受けるものの所得とパネルの面積には密接な関係があります。所得には既に法人税、法人住民税、法人事業税が課されているので、発電用パネルの面積を課税標準とする法定外目的課税はこれらの税と実質的に課税標準が同じであり、二重課税です。
事業用発電パネル税導入の主旨として、「減価償却後の固定資産税の収入減を見据えて財源を確保する」ことが示されていますが、これは実質的に固定資産税を重課することになります。太陽光発電事業者は既に償却資産税(固定資産税の一種)を払っているので、更に事業用発電パネル税を課税することは償却資産課税の延長線上にある課税となり、二重課税です。また、発電用パネルの面積に対する課税は、パネルを設置している土地の固定資産税と実質的に課税標準が同じであり、これも二重課税に該当し、①に抵触しています。
次に、FIT制度の電気の買取価格を算定した調達価格等算定委員会の費用算定の積算に、事業用発電パネル税は含まれていません。20年間の固定金額で買取保証を制度的に与えたのに対して、自治体が後から課税できるとすれば、太陽光発電事業者は電気の購入者へ転嫁できない経済的負担を負うことになり、負担は著しく重荷となり①に抵触します。税率は1平方メートルあたり50円(1kWあたり約230円)ですが、この税率は、太陽光発電事業者の事業採算性に与える影響は小さくありません。設備導入済みの太陽光発電事業者は想定された収益が確保できなくなり、借入金の返済計画等の変更も余儀なくされます。また、買取価格が下がっている中でこれから事業を開始する太陽光発電事業者の収入に与える影響はより一層大きなものになります。
当該自治体は、納税義務者の税負担について電源開発促進税と比較して事業用発電パネル税は過度な負担にならないと主張しています。しかし、電源開発促進税との比較は不当だと言えます。電源開発促進税を払っているのは大手電力会社であり、その資本金は1142億円~1兆4009億円と非常に高額です。それに比べると、多くが中小零細企業である太陽光発電事業者に、こうしたに新たな税金を課すことは過度な負担に繋がります。大手電力会社は数多くの事業を行っており、その中から税負担に耐える収益を上げることはできますが、太陽光発電事業者の収入はFITで決められた売電収入のみであり、経営努力で税負担を分散吸収できる構造にありません。FIT価格は必要な費用の積算で決められており、事業用発電パネル税は、費用の積算に含まれていません。そのような費用を後から遡及的に追加することは、FIT制度(国)を信頼して事業参入した事業者に不意打ちを与えるものであり、FIT制度の信頼を害するものとなるとともに、地方税法上「負担が著しく過重になる」といえます。
事業用発電パネル税の課税は、③にも抵触しています。わが国は再生可能エネルギーを主力電源と位置付け、FIT制度に基づき重要な国の経済施策として再生可能エネルギーを普及拡大させてきました。また、再エネの投資を促進する目的で、環境関連投資促進税制が導入され、固定価格買取制度の事業認定を受けた一定規模の太陽光発電設備については、国税レベルにおいて特別償却や特別控除という各種の租税特別措置が講じられ、政策的に促進手段が打たれています。事業用発電パネル税は、納税者である太陽光発電事業者が国税レベルにおいて受けている税の恩典を、自治体が後から横取りするものにほかならず、国の経済政策に照らして適当ではありません。
FIT法では、「電気についてエネルギー源としての再生可能エネルギー源の利用を促進し、もって我が国の国際競争力の強化及び我が国産業の振興、地域の活性化その他国民経済の健全な発展に寄与することを目的」としており、事業用発電パネル税の徴収は、太陽光発電事業を抑制する結果に繋がるものであるため、立法趣旨に反しています。また、FIT法3条4項に基づき、太陽光発電事業者の売電収入は、発電事業者が負担する費用を考慮したうえで、発電事業者が適正な利潤を確保できるように決定されています。後から太陽光発電事業者に課税することは、調達価格を決定する際に予想できなかったものであり、また、発電事業者の利潤を減少させるものであるから、発電事業者に適正な利潤を確保させ、もって再生可能エネルギーを促進しようとするわが国の経済政策に反しています。
次に、事業用発電パネル税条例は地方自治法との関係でも問題があります。地方自治法では、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて条例を制定することができると規定されており、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には無効とされています。そして、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比し、かつ、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならないとの判例があります。
パネル面積に応じて課税する点で法人事業税及び固定資産税と課税標準を同じくし、二重課税であって、かつ、発電事業者に適正な利潤を得させて再生可能エネルギーを促進するために発電事業者が事業上負担する費用その他の事情を考慮して調達価格を決定することとしているFIT法の趣旨、目的、内容及び効果と矛盾抵触しており無効です。
さらに、事業用発電パネル税は違憲の可能性もあります。日本国憲法では、平等原則、財産権の侵害、適正手続の保障及び租税法律主義が定められています。事業用発電パネル税は、地方自治に関して意思表示することが難しい特定の企業を狙い撃ちにする側面が強く、租税制定権の濫用・租税制定手続上の問題があります。また、制度上、納税者に弁明の機会が保障されておらず、特に納税者に選挙権がなく、議会における発言や投票行動による意思表示の方法が与えられていない企業の場合には、その意思を条例制定過程に反映させる機会が十分に与えられていないことから、憲法第84条の趣旨である「代表(同意)無ければ課税無し」という基本原理に根本的に反する状態が生じるため、違憲である可能性を否定できないと思っています。