経済産業省の原発停止に伴う燃料費増加試算というものがあり、3.1兆円~3.6兆円も余計に燃料費がかかっているとされている。この3兆円超という数字の国富流出を止めるためには、原発を再稼働させることが特効薬というロジック。私はこれを国富流出論と呼んでいるが、この理論の中身について考えてみたい。

 この3兆円超という数字は報道などで聞いたことがある方が多いと思うが、一体全体どのような計算式で試算されているかまでご存じだろうか。ごく簡単に説明するとこの試算では、福島の事故以前の全国の原発発電量をそのまますべて火力で代替するとしたらいくらになるかという想定で計算されている。詳しく示すと、08年から10年までの全国の原発発電量の平均値(2748億kwh)から12年に稼働した原発の実績発電量(156億kwh)を引いた発電量(2592億kwh)をすべて火力で代替すると燃料費が3兆円超ということになる。

 想定としておかしいところがいくつかある。まず、3.11以前に日本に存在した福島第一を含む原発54基すべてで発電していた2748億kwhを元の数字にすることにリアリティーがない。理由はいたって簡単な話であり、現在の日本に原発は48基(54基マイナス福島第一の6基)しかないということ。現状で原発は48基しかすでに存在しないのに、「54基の原発が稼働しないことによる」という想定はあり得ない。エネ庁の資料によれば08年から10年までの福島第一の発電量は、08年が338億kwh、09年が330億kwh、10年が240億kwhとなっていて平均すると303億kwhであり、少なくとも事故炉である福島第一の303億kwhは想定から除外するべきだ。誰が考えても、福島第一が再稼働して発電をするということは100%あり得ない。さらに、現実的には福島第二も再稼働の可能性は極めて低いと言わざるを得ないわけで、同様の計算をするとこちらは318億kwhとなる。2592億kwhから303億kwhやさらに318億kwhを引いた、2289億kwhや1971億kwhがよりリアリティーのある数字だ。

 また、そもそも54基の原発の発電量を火力で代替したらという想定自体にも疑問がある。3.11以前の火力の発電量と12年の火力の発電量を単純に比較すれば、実際に火力で焚き増した電力量が出るわけで、この数字のほうが現実に近い数字であることは誰にでも分かる。火力発電量は10年が4854億kwhで12年が6668億kwhとなっている。つまり、実際に焚き増した可能性がある火力発電量は1814億kwhであり、経産省が試算の元にしている2592億kwhと実際の発電量には778億kwhもズレが生じているのだ。これを燃料費に換算すると経産省の試算よりも1兆円も少なくなる。このズレが生じる大きな要因のひとつは、一般電気事業者の年間発電量が10年8220億kwhから12年7423億kwhと797億kwhも減っていることを見れば一目瞭然。3.11後の国民や企業の弛まぬ努力により、震災前に比べ10%も消費電力が減っているということだ。

 一方、天然ガスの輸入量と輸入額を貿易統計でみてみると、2010年を100とすると輸入量は125であるのに対し輸入額は203と倍増していることが分かる。このことを見ても、貿易統計の天然ガスの輸入データからは、価格の変動が輸入額に大きく影響していると考えられる。経産省の試算でもこうした燃料価格の高騰や為替の変動による要因が1兆円以上あると認めている。

 このように、経産省の言っている燃料費の3兆円増による国富流出論は、よく考えれば2兆円前後も割り増した数字であることが分かる。そして、燃料費による国富流出論というのであれば燃料の必要な原発ではなく、燃料費がかからない再生可能エネルギーの導入を図るのが最も効果的な方策だ。

 3兆円以上もの国富が燃料費ためにかかっている、だから原発の稼働が必要だというロジックにダマされてはいけない。